スパルタ 古代ギリシャ

スパルタ300人の実話:映画とリアルの違い9選!


この記事では映画『300〈スリーハンドレッド〉』と史実の違いを解説する。

この記事のポイント

  • 映画と実話と違い
  • 映画の元ネタがわかる
  • スパルタの戦闘


結論、映画【300】は実話とフィクションが入り混じった作品
前提として映画制作陣はテルモピュライの戦いを異なった形で再現し、歴史を正確に伝えるものではないとしている。

そこで今回は映画の内容と史実の違いを勝手に比較してみた

この記事を見ることで映画の内容の理解が深められる。

テルモピュライの戦い:スパルタ300人の実話

レオニダス軍


古代ギリシャで起こったテルモピュライの戦い。映画ではスパルタ300人が自由のために大軍のペルシア軍のに立ち向かった。

しかし史実では多くのギリシャ兵が共に戦い、スパルタ以外にも勇敢に戦った兵士がいた。

1.300人vs100万人で戦ったのか?

レオニダスとテルモピュライ


史実では5000人以上のギリシャ連合軍vsペルシャ兵10万~30万人。

映画ではスパルタの300人にアルカディア人などが加わる。

ヘロドトスは以下のギリシャ人が加わったとしている。

ポイント

  • スパルタ:300人
  • テゲア:500人
  • マンティネイア:500人
  • オルコメノス:120人
  • アルカディア:1,000人
  • コリントス:400人
  • プレイウス:200人
  • ミュケナイ:80人
  • テスピアイ:700人
  • テバイ:400人
  • ポキス:1,000人

またこれに加えてスパルタには兵士1人につき7人の従卒がいたとされる。
これら補助の兵を加えればギリシャ軍の勢力は倍以上になる。

ヘロドトスによると、ペルシャ兵は500万人以上いたという。
しかし多くの専門家はこれだけの人数を維持することは困難とし、ペルシア兵の数は10万人から30万人であったしている。

2.歴史に名を残したのはスパルタだけ?

伝令を送るレオニダス

史実ではレオニダスの命令でギリシャ連合軍が撤退したが、実際はテスピアイ兵とテバイ兵は残った。

ポイント

  • テスピアイ兵
    スパルタとともに自ら最後まで戦うことを選んだ
    このため、テスピアイ兵はスパルタに劣らない勇敢さを評価された
  • テバイ兵
    テバイ兵はペルシャとの関係を疑われており、レオニダスは彼らを人質として戦場に留まらせた
    最後の戦いでテバイ兵は戦う意志を示さず、ペルシア軍に降参した
    その後、奴隷として仕えた


このようにテスピアイ兵はスパルタと同じく、名誉の死をとげ歴史に名を残した。

一方、テバイ兵は生き残ったものの、奴隷という不名誉な生涯を送った。

【300】とは異なる実話:スパルタの装備と戦闘

古代ギリシャ兵とペルシャ兵の戦い

『300』のスパルタ人は、個々の兵士が裸に近い姿で剣を振るう姿が印象的。

しかし史実では全身を武装した重装歩兵であり、主要な武器も剣ではなかった。

3.スパルタの装備は、裸にマント?

実際は全身を武装した重装歩兵

映画では、マントと兜、すね当て、盾のみを身につけたマッチョでほぼ裸に近い姿が特徴的。

スパルタでは7歳から厳しい軍事教育を受ける。日々体を鍛えていたので実際のスパルタ人もマッチョ姿であったと思われる。

しかし史実のスパルタは戦争になると青銅の胸当てなど、約30kgの全身を守る鎧を身につけていた。

なので映画のような鍛え上げた体をしていたが、露出の多い服装で戦うことはなかった。

4.スパルタの戦闘は剣?

戦闘シーンでは敵を剣で切り裂き、個々の戦いが強調されている。

しかし、史実では長さ2〜3メートルの長ヤリを主要武器とする。剣はヤリが折れたときの補助的な武器として使われていた。

またスパルタの剣は、シポスと呼ばれる全長30cmほどの短剣。

この剣は斬撃には適しておらず、突きによる攻撃をメインとした。

古代ギリシャの武器はヤリが一般的で、ヤリ士という言葉はあるが、剣士という言葉はない。

なのでスパルタ人が一騎打ちで剣を振るうことはなかった。

スパルタの強さは「ファランクス」でヤリや盾を使い、個人の戦いよりも集団の陣形維持が重要視されている。

【300】と実話の比較:裏切り者と英雄のスパルタ人

レオニダス像


裏切り者エフィアルテスやレオニダス王の描写、そして有名な「This is Sparta!」の蹴り落とすシーン。

これらは史実とは異なる部分が多く存在する。この章では、映画と史実の相違点を解説する。

5.裏切り者エフィアルテスとは?


映画では醜い怪物のようなスパルタ人として描かれている。

その体ゆえに兵役できず、スパルタを裏切る動機となる。

史実ではスパルタ人ではなく地元のマリス人

また容姿についての記述はなく、彼がペルシャ軍に裏道を教えたのは金目当てとされる

そして彼の裏切りが発覚すると各国から懸賞金をかけられ、テッサリアへ逃亡した。
最後はアテナテスという人物によって殺害されている。

6.レオニダスの実像と最後


映画では30~40代の戦士で、矢の雨によって戦死した。

実際は60歳を迎えていて乱戦の中での死亡。

レオニダスの最後

  • レオニダスはテスピアイ、テバイ軍を率いて最後まで戦った
  • そしてレオニダスが倒れるとギリシャ軍は彼の遺体を守るため、敵軍を4回撃退した
  • しかし、ペルシャ軍が振らせた「矢の雨」によりテバイ兵を除いてギリシャ軍は全滅
  • 彼らはペルシア軍に最後まで抵抗し、槍が折れると剣で、剣が折れると素手や歯で戦った


レオニダスは古代ギリシャの英雄とされ、今はギリシャのテルモピュライ跡地と故郷スパルタにレオニダス像がある。

7.レオニダスがペルシャの使者を蹴り落とす

スパルタ兵が井戸にペルシャ兵を突き落とす


これは1998年に刊行した『300』というアメリカン・コミックから着想をえた創作

実際はクセルクセスではなく、父のダレイオスがスパルタに使者を送った。
また時代も異なり、テルモピュライの戦いより前に遡る。

ダレイオスは全ギリシャに使者を送り、土と水を要求した。しかしアテナイとスパルタだけはこれを拒否。このときの様子をヘロドトスはこう記している。

アテナイ人は土を求めてきたその使者を処刑坑(バラトロン)に投じ、スパルタ人は井戸に落として、そこから土と水を大王のもとへ持ってゆくがよい、といったのである。

<ヘロドトス 歴史 (下) 巻七 一三三節 松平千秋訳 岩波文庫 p.83>


象徴的なのはレオニダスが「This is Sparta!」と言い放ち、大きな穴に蹴り落とすシーン。

これは『300(コミック)』の内容をほぼ同じように再現したもの。

コミックではレオニダスが使者を蹴り落とす一連の流れが、描かれている。

しかし実際はペルシャ兵を井戸に投げ込んだとされる。

【300】で描かれないスパルタの実話とは?複雑な国家体制


『300』では、強靭な戦士たちの姿を英雄的に描いている。

しかしその背景にあるスパルタの複雑な社会構造や、厳格な教育制度についてはほとんど描かれていない。

8.スパルタ全員が市民?


映画では奴隷の描写がない。
しかしスパルタの社会は人口の大多数を占めるペリオイコイ(半自由民)とヘイロータイ(奴隷)により成り立つ。そのためスパルタ市民の数は圧倒的に少ない。

以下の表がスパルタの階級。

階級役割経済活動
スパルタ市民国家の運営と軍事訓練に従事ヘイロータイからの収穫物で生活
ペリオイコイスパルタに変わり経済活動に従事武器や衣服の生産、交易などを行う
ヘイロータイ農業労働に従事収穫物の一部をスパルタ市民に納める。

また経済活動や、農業以外にも彼らは戦争にも参加する義務があった。

9.狼と戦ったのか?


幼いレオニダスが一人で極寒の地に送られ、狼と戦う。これは、スパルタ教育の厳しさを強調するための演出。

史実のスパルタ教育「アゴゲ」は7歳から集団生活を送り、厳しい訓練を受ける。
しかし動物と戦うことはない。

教育は30歳まで続き集団での規律と戦術訓練を徹底的にたたき込まれる。

【300】が伝えたかったスパルタの真実とは?

this is sparta 棒人形が蹴り落とす


この記事では映画『300〈スリーハンドレッド〉』と史実の違いを解説した。

最後に映画と実話の違いをまとめる。

映画

  1. スパルタ300人vsペルシア軍100万人の戦い
  2. 最後に残ったのはスパルタのみ
  3. ほぼ裸の服装にマント着ている
  4. 個々のスパルタ人が敵を剣で切る
  5. 醜い体のエフィアルテスが腹いせにペルシャに裏道を密告
  6. レオニダスは30~40代の壮年期
  7. レオニダスが使者を穴に蹴り落とす
  8. 奴隷の描写はなくスパルタ市民が訓練している
  9. 少年のレオニダスが狼と戦う

実話

  1. 5,000人以上のギリシャ連合軍が、10万〜30万人のペルシア軍と戦った
  2. テスピアイ兵は名誉の死を得て、テバイ兵は奴隷となった
  3. 30kgの全身を守る鎧を着た重装歩兵
  4. 長槍ヤリと盾を使い、戦術はファランクス
  5. エフィアルテスはマリス人でペルシャ人に金目的で密告
  6. レオニダスは60歳を迎えていた
  7. スパルタ人により井戸に投げ込まれる
  8. スパルタは奴隷など下級によって成り立つ
  9. 7歳から厳しい軍事訓練が始まる


このように映画では史実をもとに、フィクションを交えた作品になっている。

製作総指揮のフランク・ミラーは不正確な描写は意図的なものだとしている。

理由としては重装歩兵のスパルタ人は近くでなければ見分けがつかない。

そのため防具を外すことで彼らの表情が見えるようにし、かっこよさを強調した。

また、レオニダスの兜だけ羽飾りを付けたことにより王として際立たせる狙いもあったという。

彼がこの映画で伝えたかったのは「歴史は尽きない魅力がありこの映画を通して、自ら歴史を探求してほしい」としている。

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